ひとつのエピソードが思わぬ方向に発展し、五感を巡礼していく、五つの随想が収められています。
自分は「犬派」だと思っていたが、本質は「猫」かもしれないと気づいた「放浪の効用」、一度聴力を失った女性が体内の音に耳を澄ませて鼓膜を再生させたエピソードが心に残る「聞こえてくるあの音は?」、シマの概念をできる限り拡大して考えを巡らす「シマの境界」、植物の種のように拡散することばの生命力を讃えた「ことばの飛び地」、写真との出会いが自意識の殻を脱ぎ捨てる作用を及ぼした「『わたし』のなかのたくさんの『他人』」。それぞれのエピソードに潜むエキスを抽出しながら、思索の輪を広げていきます。
自分の書くものは一言で説明するのがむずかしい、と著者は言いますが、たしかにこれまでのカタリココ文庫のラインナップを見ても写真、美術、漫画とさまざまな表現ジャンルが取上げられてきました。『五感巡礼』は、そのような著者の物事への関心の持ち方が明らかになる1冊と言えるでしょう。 初出は日本経済新聞「プロムナード」欄で、半年間連載したエッセイを5つの項目に分けて、それぞれのエピソードがつながるように改稿しました。
ジャンルが細分化し、思考のタコツボ化が進んでいるいま、『五感巡礼』は、現実世界を旅するようにアタマのなかを巡って、凝り固まりがちな思考を柔らかくマッサージしてくれることでしょう!
[目次]
1章 放浪の効用
2章 聞こえてくるあの音は?
3章 シマの境界
4章 ことばの飛び地
5章 「わたし」のなかのたくさんの「他人」
仕様:文庫判/並製/95ページ
発行:2021年1月
発刊:カタリココ文庫