カタリココ文庫8号は、写真家・畠山直哉と文筆家・大竹昭子の対談、および 畠山直哉による随想『見えている パチリ!』をお届けいたします。
畠山直哉は写真家ですが、すぐれた文章家でもあります。
本書に収めた「心の陸前高田」は『新潮』2021年4月号に掲載されたものですが、出た直後に一読し、とても重要なことが書かれているのでカタリココ文庫に収めて長く読まれる 状態にしておきたい、と思いました。
陸前高田にあった実家が大津波で流され、母を亡くして以来、彼は故郷に通っ て撮影してきました。しかし、パンデミックという「新たな出来事」がそれに重 なり、帰郷がままならなくなります。ふるさとが遠のいていくような不安、自分 の言動に慎重にならざるを得ないような風潮、倫理観に縛られて直感的に行動で きなくなっている状況、結果を性急に求めすぎる傾向……。
シームレスにつながっていく彼の社会への懸念は、私たちが日々感じながらも 深く考えてはいない事柄を明らかにします。それらを分かりやすい例を挙げなが ら粘り強く思考する彼の姿に、読者は圧倒され、また勇気づけられることでしょう。
昨年10月に畠山と大竹は本書のための対談をおこないました。ふたりには『出来事と写真』(赤々舎)という対談集がありますが、そのつづきにあたるこの対 談では、急がずに、社会の動きに翻弄されずに、「出来事」以降の時間を自分の なかに抱え込んで行きつ戻りつしながら考えることの意義が確認されます。
カタリココ文庫では、毎回、いま読者に届けたい、と望むものを作るよう心がけています。私たちが日々抱いているもやもやした感情に光を当て、考えを深め ていくきっかけを与える大切な一冊となればとてもうれしいです。 (大竹昭子)
仕様:文庫版/並製/85ページ
発刊:2022年2月
発行:カタリココ文庫